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広島高等裁判所 昭和52年(う)167号 判決 1978年4月18日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人藤本亘、同水口昭和連名作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、広島高等検察庁検察官検事高橋泰介作成名義の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

論旨第一点(法令適用の誤りの主張)について。

所論は、労働安全衛生法三〇条一項にいう「同一の場所」とは、当該作業により何らかの安全上の影響を受ける可能性のある範囲内の場所をいうものであって、本件においては○○工業による足場変更工事の行なわれていた六八二番船右舷ナンバー三ウイングタンク内に限られるべきものであるにもかかわらず、六八二番船の船殻作業場全域を「同一の場所」とした原判決は法令の解釈適用を誤ったものであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

よって検討するに、労働安全衛生法三〇条及びこれを受けて制定された労働安全衛生規則(とくに六三六条)の趣旨は、同一場所で特定元方事業者(建設業、造船業にかかる元方事業者)の労働者やいくつかの請負人の労働者が入り込んで作業している場合には、これら労働者間の連絡調整が不十分であったことなどから数多くの労働災害が発生しているため、特定元方事業者に安全管理の交通整理ともいうべき役割を積極的に行なわせることにより混在作業より生ずる各種労働災害から下請労働者をできる限り広範囲にかつ適切に保護しようとするものと解すべきであって、同法条にいう「同一の場所」の範囲も、仕事の関連性、労働者の作業の混在性及び統括安全衛生責任者の選任を定めた同法一五条の趣旨をも併せ考慮して目的論的見地から決定されるべきものであり、本件においては、その範囲は、前記六八二番船の船殻作業場全域を指すものと解するのが相当であって、これを所論のように本件事故発生現場である右六八二番船右舷ナンバー三ウイングタンク内に限定すべきものとは考えられない。それゆえこれと同旨の原判決は正当であって、所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

論旨第二点(事実誤認の主張)について。

所論は、被告人会社従業員西野一夫は、総合安全作業指揮者の補助者として混在作業間の連絡調整義務及び足場作業主任者として足場作業をする際の危険防止のための連絡調整等必要な措置を講ずべき義務を負うものであり、また○○工業従業員南川春雄も足場作業主任者として同様の義務を負うものであり、被告人会社は被告人会社従業員、下請会社責任者、足場作業主任者等に対し、足場作業の際の危険防止のための必要措置につき十分指導教育しているので、被告人東田が西野に、さらに西野が南川にそれぞれ本件足場作業の施工を指示した際、当然のこととして暗黙のうちに労働災害を防止するに必要な措置を講ずべきことが伝達されていたにもかかわらず、被告人東田がこれら必要な措置を講じないで本件足場作業をさせたと認定した原判決は事実を誤認したものであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、原判決挙示の各証拠を総合すれば、原判示事実は所論の点をも含めて優にこれを肯認することができ、当審における事実取調べの結果によっても右事実に誤りがあるとは認められない。右各証拠によれば、被告人東田から本件足場作業施工の指示を受けた西野一夫は被告人会社の組長であって、総合安全作業指揮者である北山現場長の補助者として、あるいは足場作業主任者として、また右西野から本件足場作業施工の指示を受けた○○工業の従業員南川春雄は足場作業主任者として、それぞれ所論指摘のとおりの義務を負っていたこと、被告人会社が昭和五一年一月から二月にかけて足場作業に関する講習会を開催し、足場作業主任者等を受講させテストを受けさせるなどして足場作業の際の危険防止策につき指導教育を行なっていたこと、被告人東田は被告人会社船殻工作部外業課外業係長として、同課の安全管理者である課長を補佐する立場にあって、作業の実態を認識したうえ、作業間の連絡及び調整を行なうにつき必要な措置を講ずべき義務を負っていたこと、被告人東田が前記西野に本件足場作業の施工を指示した際、関係請負人に本件足場作業が施工される旨連絡しておらず、また右西野にも本件足場作業場周辺に立入禁止など災害を防止するに必要な措置を講ずべきことは具体的に指示していないことが認められる。右のとおり被告人西野は、被告人会社船殻工作部外業課外業係長として、同課の安全管理者である課長を補佐する立場にあって、作業間の連絡及び調整を行なうにつき必要な措置を講ずべき義務を負っているのであるから、たとえ西野、南川に前記のように危険防止の措置を講ずべき義務があり、また同人らが被告人会社から足場作業の際の危険防止のための必要措置につき指導教育を受けていたとしても、足場作業における墜落事故が発生し易い状況にかんがみ、同被告人自身も、災害の防止を徹底するため、関係請負人に本件足場作業が施工される旨連絡し、また前記西野に本件足場作業場周辺に立入禁止の措置を講ずるよう明確に指示するなど災害を防止するに必要な措置を講じなければならなかったものといわなければならない。それゆえ、同被告人が「前記各労働者の作業が同一の場所において行なわれることによって生ずる労働災害を防止するに必要な措置を講じないで作業させた」と認定した原判決は正当であって、所論のような事実誤認のかどは存しない。論旨は理由がない。

よって刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西俣信比古 裁判官 岡田勝一郎 裁判官横山武男は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 西俣信比古)

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